http://www.unep.org/news-and-stories/speech/executive-directors-statement-150th-meeting-committee-permanent
常駐代表委員会 フェルナンド・コインブラ議長、
大使および閣僚、同僚の皆さんへ
この異例で悲劇的な時代にあって、環境ガバナンスの仕事を継続するために、私たちがこのように事実上連携する場を持ったことに、とても感謝しています。あなた方全ての政府の努力は、人類の苦難を防ぐということに正しく焦点が当てられており、世界の一部がゆっくりと回復に向かってはいますが、環境に関する指針の議論は、今回のCOVID-19のような、将来起こりうる地球規模のパンデミックにおける再発防止策の最も有効な保険の一つとして残されています。
「大規模なロックダウン」は、私たちのこれまでの生き方の課題を示しました。
他に類を見ない危機であることが判りつつあるこのパンデミックの矢面に立つ加盟国・人々と、私は思いを一つにします。過去8週間で、COVID-19は私たちの生活様式を明るみに出しました。何十億もの人々がロックダウン下におかれ、何百万人もの人々がさらに貧困に陥っています。国際通貨基金(IMF)はこれを「大ロックダウン」(Great Lockdown)と呼んでいますが、これは大恐慌(Great Depression)以来の最悪の景気後退です。
このような混乱にもかかわらず、私はUNEPが活動をしっかり継続している(open-for-bussiness)ことを非常に誇りに思っています。私たちのスタッフは迅速に適応し、加盟国への使命を果たし続け、実質的に機能しています。現時点では職員の福利は最重要課題であり、世界中のUNEP事務所にいる優れた同僚を支援するために、私たちは出来る限りのことをすると誓います。あなた方がお持ちの四半期報告書が概説しているように、パンデミックの影響で不可避的な遅れはあるものの、作業計画(POW※)は前進し続けています。
※
POW:Programe of Work, UNEPの総会において定められる2年間の活動計画
回復への一つのロードマップ―SDGsとパリ協定
多くの国にとって、回復について今話すのは時期尚早に思えるかもしれません。しかし実際には、医療緊急事態が過ぎると、この世界的な悲劇によって引き起こされた苦しみを緩和するために成長のエンジンをパワーアップしなくてはなりません。アジェンダ2030(持続可能な開発目標)と気候変動に関するパリ協定は、永続的な回復のための唯一の選択肢です。
私たちが解決策を模索するにあたり、加盟国が何十年にもわたって描いてきた、無数の環境課題の克服策を継続していくことが重要です。私たちは、環境保護は贅沢品ではなく、持続可能で包括的な成長の中心にあり、COVID-19、生物多様性の損失、汚染、気候変動などから最も脆弱な人々を保護する中心となっているということを地道に学んできました。
今週初めに発表された「COVID-19に対する即時の社会経済的対応のための国連枠組(仮訳)※」に記されているように、現在のパンデミックは、人間、動物、環境の間の親密な関係を思い起こさせるものです。
※「COVID-19に対する即時の社会経済的対応のための国連枠組(仮訳)」(A
UN framework for the immediate socio-economic response to
COVID-19 APRIL 2020):https://unsdg.un.org/sites/default/files/2020-04/UN-Framework-for-the-immediate-socio-economic-response-to-COVID-19.pdf
もちろん、UNEPの作業計画(POW)の枠組みの中でも、COVID-19への対応をしっかりと形成してあります。
私たちの対応は、廃棄物管理システムの強化など、医療的緊急事態の課題に取り組む加盟国をサポートすることです。
私たちの対応は、健全な地球に戻すべく、より進んだ科学と政策を提供するために取り組むことです。
そして、私たちの対応は、再生可能エネルギー、スマートシティとインフラストラクチャー、グリーンジョブ、持続可能な消費と生産など、長期的にみてグリーンな社会に到る機会の後押しをすることです。
詳しく説明しましょう。
1. COVID-19の対応ではプラスチックを含む廃棄物の効果的な管理が重要
COVID-19は、他に類を見ない医療的緊急事態であり、医療廃棄物と有害廃棄物の急速な増加をもたらしています。たとえば武漢からの報告では、パンデミックの最盛期における廃棄物の発生量が6倍に増加したことが指摘されています。バーゼル、ロッテルダム、ストックホルムの会議での私たちの同僚は、医療、家庭、およびその他の有害廃棄物を含む廃棄物管理を緊急かつ不可欠な公共サービスとして扱うよう政府に要請しています。
私たちの枠組みの中、つまり第4回国連環境総会(UNEA4)で合意された「Towards a Pollution-free Planet(汚染のない地球へ)
※」では、加盟国へのUNEPの支援として、能力評価をもとに、医療廃棄物システムの対応能力や、環境に配慮した廃棄物管理技術と方法の推進があげられ、そこでは健康と環境への二次的な影響の可能性を最小限に抑えることを視野に入れています。
※Towards
a Pollution-free Planet:http://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/21800/UNEA_towardspollution_long%20version_Web.pdf?sequence=1&isAllowed=y
2. 自然と私たちとの関係を再確認する時
2016年、UNEPの先駆的な「フロンティア・レポート※」が警鐘を鳴らしました。それは人間のすべての既知の感染症の60パーセントとすべての新興感染症の75パーセントが、人畜共通感染症であるという報告です。 COVID-19は、感染経路が未だ完全には解明されていないものの、現在動物とヒトの間で共通に感染することが知られている多くの疾患の、まさに一つなのです。
※フロンティア・レポート: https://environmentlive.unep.org/media/docs/assessments/UNEP_Frontiers_2016_report_emerging_issues_of_environmental_concern.pdf
Pg. 18
混乱とリスクの科学をよりよく理解するために、UNEPは、劣化する生態系の健康、生息地と生物多様性の損失、および種の乱獲についての関連性をマッピングしています。このようなマッピングは、環境を調査し続けるという私たちの使命の一部として、加盟国に人畜共通感染経路をより明確に理解してもらい、これらの経路を遮断する方法を特定できるようにします。これは、自然に対して「安全な運用空間」とはなにかを示すことが出来る対応政策の明確化と密接に関連しているため、将来的に今回のようなパンデミックが防止される可能性もあります。
人間の健康を維持していくには、私たち全員で環境を支えるシステムを守るための、グローバルな政策の枠組みを強化する必要があります。そして、まさにこの理由により、生物多様性、化学物質管理、または気候変動について今年達成することが期待されていた多くの目標の進展が依然として非常に重要なのです。 UNEPは、意欲的で測定可能かつ包括的な2020年以降(Post 2020)の世界生物多様性枠組、および2020年超(Beyond 2020)の化学物質と廃棄物管理枠組にたどり着くために、大変な努力をしています。どちらも、自然を保護し、完全で多様、そして繁栄を維持する上で中心的な役割を果たすからです。地球の生命維持システムが強力であればあるほど、人間の健康はより良くなるでしょう。
UNFCCC(気候変動に関する国際連合枠組条約)のCOP26が延期されることによって、新たな国別に決定する貢献(NDCs)の提出が遅れることとなりますが、これは、回復努力と気候にやさしい投資をかみ合わせて経済を活性化し、強靭性を高め、グリーンで持続可能な雇用機会を構築する、それによってNDCsをさらに強化する機会と見るべきでしょう。
3. より良い復興を
COVID-19は、私たちの集団としての脆弱性を明らかにしました。複数の経済的、社会的、制度的要因が関連し、環境リスクを増幅し、医療サービスに悲劇的な結果をもたらしています。回復の取り組みは、環境にやさしく、弾力的、包括的で持続可能なものであることが重要です。
刺激策パッケージは、再生可能エネルギー、工業生産の改善、廃棄物管理、またはインフラへの投資を通じて、「グリーンに切り替える」機会を提供する必要があります。回復は変革的かつ環境にやさしいもので、持続可能な消費と生産に従ってなされます。持続可能で、資源効率が高く、弾力的で包括的な価値の連鎖は、アジェンダ2030を実現するための中心であり、UNEPのCOVID後の戦略の中核です。
5つの設計原則の上に、UNEPは加盟国のグリーンな財政刺激策と資金調達を支援します。1)「グリーンでまともな」雇用と収入が中心となること;2)公共の富と、社会的かつ生態学的インフラへの投資; 3)持続可能な消費と生産を推進する循環性; 4)気候の安定と生態的な統合性に向けた責任ある融資; 5)社会的に包括的な成果
「COVID-19に対する即時の社会経済的対応のための国連枠組」は、実際、「国連開発システム(UNDS)」に、「グリーンエコノミーに関する行動のためのパートナーシップ(PAGE)」を動員し、グリーンジョブ、経済および環境問題に関する統合的支援を提供することを求めています。 PAGEは世界中の20か国で運用されており、COVID-19をきっかけに成長と回復を刺激する政策に関するピアラーニング(仲間同士で協力し合って学習する手法)とナレッジトランスファー(知識移転)を支援する手段として使用できます。
4. 新しい働き方が環境外交を強化
また、物理的な会議が不可能な場合でも、新しい働き方が環境外交に情報を提供し、場合によってはそれを強化する方法を模索しています。 UNEPは、15の多国間環境協定(MEA)それぞれの「ドッキングステーション」であることを誇っており、これによってMEAを引き続き支援しています。多くの協定は、環境ガバナンスを軌道に乗せるための印象的かつ革新的な方法をすでに開発しています。それらの活動過程で、法的、物流的、環境的、政治的な影響、および環境ガバナンスと多国間主義を改善する機会などについて、私たちは継続して見直しをします。
COVID-19を通じて、地球は私たちが変わらねばならないという最も強い警告を出した
国連事務総長が述べたように、「相互に関連し合う世界では、私たち全員が安全になるまで、誰も安全ではありません。COVID-19ウイルスには国境はありません。 どこにいるCOVID-19でも、世界のすべての人々にとっての脅威となります」。
COVID-19を通じて、地球は、私たちが変わらなければならないという最も強い警告を出しているのです。封鎖に伴って見られる環境面での変化、ケープタウンの通りを歩くペンギン、海岸に帰るカメ、世界中のきれいな空など、素晴らしさはたくさんあります。しかし、大規模なロックダウンは環境改善のためではなく、人々に今とは異なる未来のカタチがあるということを垣間見させてくれたものです。しかし、これらのめぐみは、私たちが自然に対抗するのではなく、自然と協働する経済を構築しない限り長続きすることはないでしょう。
そして残念なことに、世界的なパンデミックを克服しようとしても、気候変動は待ってくれません。実際、3〜4°Cのシナリオで想定される地球の未来において、私たちは現在のCOVID-19危機によって示されている一過性のものとはまったく異なるレベルの不確実性に遭遇することになります。
私たちはコロナウイルスと気候変動という、実際に起こっている二つの脅威から地球を守るために決然とした行動をとらなければなりません。そして、私たちはこれを皆で一緒に行わなければなりません。なぜなら、私たちがパンデミックから学んでいるのは、個別の解決策というものは存在せず、グローバルな解決策が必要だということですから。
この困難な道に対して、UNEPは加盟国とともに立ち向かいます。
いずれにおいても、人々と機運との連帯の上に。
貧困との闘いにおける数十年の歩みを逆転させないように。
私たちが作り上げるものを以前よりも強く、弾力性のあるものにするため。
地球の健康を確実に保護するため。
そしてこれによって、すべての人々の健康を守りましょう。